· 

夢〜6つの性格的小品

この6つの曲からなる「夢」というピアノ組曲は、スメタナが病により聴力を失う晩年1874年あたりから1875年にかけて作曲された、演奏時間約30分に及ぶスケールの大きい作品です。

 

彼の代表作である「モルダウ」が含まれている『我が祖国にて』と同じ頃に生み出されたこの作品は、一言で言うと、スメタナ自身を彼が愛するチェコという国に重ねて描いた作品であり、彼の後期ピアノ作品の中でも大変重要な作品です。

 

この中の第一曲のタイトルに「失われた幸福」とあるように、耳が聞こえなくなり、劇場を辞すと言う、作曲家として最悪な出来事の最中にあったスメタナが、やるせない現状を嘆きつつも、周りの慰めや支援に感謝し(第二曲 コンソレーション)スメタナにとって大切なチェコの田舎の風景を駆け抜け(第三曲 チェコ地方にて)、もう戻ることはないサロンでの音楽に満ちた日々(第四曲 サロンにて)はこの時点では想像しようとしても音が思い出せないのか、フレーズが途切れ途切れに聴こえてきます。


そして自身の過去の栄光を、栄華を極めた城の姿に重ねて勇壮に歌い上げて見たものの(第五曲 お城の側で)今となってはもはや廃れた城には何も残ってはおらず、過去にすがればすがるほど、虚しさだけが湧き上がってくるのでした。

 

この様な不幸のどん底にありながら、終曲では一転して(第六曲 ボヘミア農民の祭り)溌剌とした明るさやエネルギー、リズム感に富んだ踊りなどで活き活きと喜びを描き、強烈なコントラストをつける事に成功しています。


スメタナは田畑を耕し作物を収穫する農民というものがチェコにとって1番大切な存在であると考えていたといいます。生命力漲る出色の作品となっています。