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チェコ民謡による幻想曲


この曲はチェコ国民の願いであった国民劇場が仮に作られた1862年に作曲された作品です。
4つの民謡を用いて作曲されていますが、作風は大変洗練された印象で、全体に雄大な響きと、数珠のように繋がる細やかなパッセージが対比を見せ、スケールの大きな作品です。
最後はチェコという国に対しての愛国心と誇りを大合唱で歌い上げるかの様に幕を閉じます。
スメタナがコンサートピアニストを志していた頃に作曲された作品で、技巧的にも音楽的にも深い感銘を与える作品に仕上がっています。
演奏時間も約9分半とスメタナ作品にしては長い作品です。
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さてここからは昔話を少し…

「チェコ民謡による幻想曲」を生演奏で初めて私が聴いたのは、ピルゼンで行われたスメタナ国際ピアノコンクールに参加した2004年の事でした。

 

大学寮のような所が参加者の宿で、そこでたまたま相部屋になったチェコ人の参加者がセミファイナルで演奏するのを聴き、衝撃を受けました。
そして、初めて生演奏を聴いて涙が流れ止められないという体験をしました。
その回はその学生が結局優勝しましたが、私が流したのはコンクールに落ちた悲しみの涙ではなくて、音楽にただただ純粋に感動して出た涙でした。
何方かと言えば、若い頃の私は頭でっかちでドライな所のある学生でした。
目の前にある事柄や音楽に素直になれなかったり、何か恥ずかしさとか、遠慮など、邪魔をしているものがあり、そういうものを取り払って素直になれた楽曲、そんな風に感じた貴重な体験でした。
その演奏を聴いた足で、すぐさま駅へ向かいプラハ行きの電車に乗り込み、「必ずこの曲をいつか自分自身の手で弾くんだ」と心に刻んだのでした。
時が過ぎて、今や、チェコ民謡による幻想曲は私にとってかけがえの無い相棒となり、海辺にてと並んでスメタナのレパートリーの中でも頻繁に演奏する楽曲となりました。
これからも大切に弾き続けて行きたいと思います。